切り絵を始めたのは、「刻む」とか「切る」という行為 - 時を刻む、心に刻む、名を刻む、時間を切り取る、場面を切り取るなど空間的時間的要素、そこに存在している証しとしての意味、またこのひとときを閉じ込めておきたいというような古代からの人間の探究心や行為として想いとしての面白さ、魅力を感じたからです。

従来の切り絵は、多くの方が一度は目にしたことのある黒紙を切り、その下に色紙などを重ねて着色しています。
しかし、改めて《切り絵の美しさ》を考えたときに、その切り抜かれた《間》、《無》のなかにあるような気がして、その奥に広がる無限の空間を表現できないかと考えはじめました。
まずは奥行きやその空間を引き出すために、背景にくる着色部分と切り絵の間に透明のアクリル板を挟むことで影を出し立体感を与えたことで、さらに色やモチーフを強調するために着色する部分と透明のまま残しておくという発想にいたりました。現在は新たに、切り絵を何層かに分けて重ねていくという手法に取り組んでいます。

アンデルセンの「絵のない絵本」をモチーフにしたシリーズで、着色に押花を使用したのは、とどまることのない時の流れを「とどめておきたい」と願う切なる想いや欲望のカタチ、それでもなおいつか朽ちてしまうもの、とどめておくことのできないものの象徴として押花になりました。なので、色褪せていくのもこの作品のコンセプトでもあります。また、純粋に自分自身のイマジネーションを育んできた自然の色を何かのかたちで使ってみたかったというのもあります。

紙は伊勢型紙に使用される渋紙を用いています。
もともと染め物の型紙として作られた渋紙は、3枚の和紙を柿渋で張り合わせ、強度に加え耐水性に大変すぐれています。
わたしが特に好きな和柄、西欧のカリグラフィに見られる花形装飾、またインドのメハンディ(女性のヘナ染めによるタトゥの一種)などを取り入れた細かい模様の細い線に耐えうる紙の強度はもちろん、繊維の流れ、刃物との相性などが非常に重要になってくるのですが、それをクリアしたのが渋紙でした。
またナイフはデザインナイフと呼ばれる、刃先の小さな角度が30度というとても鋭利なものを使用していましたが、現在は伊勢型紙の職人さんが使用されているさらに刃の細い25度のものを使用しています。伊勢型紙用に作られたものなので渋紙との相性はもちろん、1ミリを下回る幅の曲線もキレイに描けます。しかし、どこででも手に入るものではないので、砥石で研ぎながらたいせつに使っています。
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